Agile Conference tokyo 2012

レポート

2012年7月18日、文京区シビックセンターホールにて、弊社主催のAgile Conference tokyo 2012が開催されました。

今年で、第四回目を迎えたアジャイルカンファレンス東京ですが、座席はほぼ満員状態でした。
募集開始と同時に多数の申し込みがあり、恒例のイベントとして(集客状況も上々で)定着してきた感があります。毎年欠かさず参加するという方も多いように感じます。

21世紀型ポートフォリオ管理への変革 - David Joyce 氏

David Joyce 氏
David Joyce 氏

最初のセッションは、ThoughtWorks社のプリンシパルコンサルタントであるDavid Joyce氏による基調講演です。「21世紀型ポートフォリオ管理への変革~事例による従来型からビジネスアジリティへの革新方法~」と題してビジネスの考え方の変革について紹介されていました。

21世紀型ポートフォリオ管理とは、次々と流れてくる要件をひとつずつ実装し、都度リリースしてゆく考え方です。ビジネスニーズを迅速に取り込む要件管理と、高速なソフトウェアデリバリーシステムとが必要となります。
言い換えると、ビジネスそのものをリーン型フロー制御をするマネジメント方法へとシフトしてゆく考え方です。仕事の進め方を変えるという、徹頭徹尾ビジネスの話でしたので管理職の方には大きなインパクトを与えたことと思います。一方で、技術の現場の方にはなじみが薄かったかもしれません。

昨今のアジャイルの考え方は、リーンスタートアップのような本に象徴されるように、デリバリーからビジネスの在り方を変えてゆこうとしています。もはや開発の方法論として留まるものではありません。アジャイルのカンファレンスでこのようなテーマが基調講演になるというのは、最近のアジャイルのムーブメントを象徴しているようにも思います。

【事例】エンタープライズアジャイル開発における組織と顧客の役割 - Gary O'Brien 氏

Gary O'Brien 氏
Gary O'Brien 氏

午後からは、同じくThoughtWorks社のプリンシバルコンサルタントである Gary O'Brien氏による「【事例】エンタープライズアジャイル開発における組織と顧客の役割」の特別講演から始まりました。

こちらは、大規模組織へのアジャイル適用事例を元に得られた知見をご紹介いただきました。
かなり本格的にアジャイルメソッドの導入に組織的に取り組んだケースで、国内ではなかなか見られない事例で、貴重な機会になったと思います。質問をされる方も多く、アジャイルの導入・普及方法に対する関心の高さが伺えました。

シニアと現場はアジャイルへの関心を持っているが、現実の問題に直面しているミドル層が硬直的であるとの指摘は日本でも同様であると感じました。フローズンミドル(Frozen Middle)なる表現が面白かったです。

その後には 4つセッションが続きます。

Disciplined Agileというお作法 - 藤井 智弘氏

藤井 智弘氏
藤井 智弘氏

まずはじめに、日本IBMの藤井様による 「Disciplined Agile というお作法」です。
IBMが提唱するDisciplined Agile Delivery (以下 DAD)という開発プロセス(フレームワーク)をご紹介いただきました。

独特の語り口で、現状のアジャイル開発の状況と、それを打破する為の DAD のコンセプトと特徴について解説されていました。
ビジネスバリューを見据えた探索型プロセスとしてのアジャイルの「理解」は、全然広まっていないのではないか? という問いかけは、David氏の基調講演とも符合して説得力のあるものに感じました。"チェックリスト"アジャイルといった表現で、テクニックの導入に終始する日本のアジャイルの現状を表現していました。背景として、ビジネスバリューに対する意識が薄い文化を指摘されており、バリューを考えるべき人間がバリューを考えていないとの指摘をされていたのが印象に残っています。

発注者としてのアジャイル開発体験報告 - 張 嵐氏 / 中川 三千雄氏

張 嵐氏
中川 三千雄氏

続いては、オージス総研より「発注者としてのアジャイル開発体験報告」のセッションです。
張様と中川様の二人で2つの事例をご紹介いただきました。

張様からは、中国にオフショア開発として発注したケースをご紹介いただき、中川様からはアジャイルを望まない国内開発ベンダーを巻き込んだアジャイル開発という、アジャイル・非アジャイルの混成チーム編成でのケースのご紹介です。アジャイル開発サイドの工夫の事例については、これまでのアジャイルカンファレンスでも多数紹介してきましたが、発注者サイドからの視点でアジャイルプロセスを評価するというのは非常に貴重なケーススタディでした。加えて、オフショアやプロセスの異なる複数チームの混在等、いずれも珍しいケースであったのも面白かったです。

いずれのケースにしても、コミュニケーションを重視することが大切であると結論づけており、アジャイル開発の本質を改めて実感する内容でした。特に、同席して日々フェイストゥフェイスの会話を重ねることの効果は高いようで、分散開発が当たり前になりつつある中で、アジャイル開発を成功させる秘訣が隠されているように感じています。

Visual Studio 2012 + Team Foundation Server 2012 で見るアジャイル開発ツール導入の勘所×有名サービスでのTFS導入事例紹介 - 吉羽 龍太郎氏 / 足利 惟氏 / 長沢 智治氏

吉羽 龍太郎氏
足利 惟氏
長沢 智治氏

そして3つめのセッションは、日本マイクロソフトより、「Visual Studio 2012 + Team Foundation Server 2012で見る アジャイル開発ツール導入の勘所×有名サービスでのTFS導入事例紹介」と題したセッションをご提供いただきました。

本カンファレンス恒例ともなった日本マイクロソフトの長沢様のセッションですが、今回は長沢様は黒子に回られて、Ryuzee.com アジャイルコーチの吉羽様と、株式会社システムコンサルタントの足利様のダブルセッションでそれぞれのテーマをご紹介いただきました。
吉羽様からは、鋭い切り口でアジャイルの本質と開発ツール導入の勘所をご紹介をいただきました。ツールもアジャイルも手段であって本来の目的を忘れてはいけないというのは、当たり前ですが重要なポイントだと思います。

足利様からは、ムビチケのサイト開発にTFSを活用した事例をご紹介いただきました。開発フレームワークを活用してきちんとレイヤー毎に疎結合な設計をしたのが功を奏したようです。きちんとした設計をするというのは当たり前ではありますが、テスト自動化等のプラクティスが必須となった昨今、フレームワークを活用しながら整然としたアーキテクチャを維持するというのはより重要になっているのだと感じました。

中国オフショア開発におけるアジャイルの適用 - 嵇 伶氏

嵇 伶氏
嵇 伶氏

最後のセッションは、日立華之櫻のジ様より、「中国オフショア開発におけるアジャイルの適用」と題して、中国のアジャイルの最新動向をご紹介いただきました。

ここ1、2年で、中国のアジャイル普及は加速的に進んでいるようです。中国アジャイル開発連盟なる組織が2年前に発足してからというもの、中国国内ソフトウェア開発会社におけるアジャイルの採用は着実に一般化しているようです。スクラム主導の色が強く、スクラムアライアンスの活動が活発なことも背景にあるそうです。

ですが、まだまだ経験値やサポートが不足しているのが現状で、普及に現場エンジニアの教育が追いついていないといった問題も顕在化してきているとのことでした。
オフショアアジャイルを上手く回す秘訣として、ブリッジSEの活用を含めたチーム作り、同一拠点でのコミュニケーションの経験等、オフショアといえども対話や人のつながりを重視するといった点をあげられていました。オージス総研様のセッションと重なる内容で、興味深いものがありました。

まとめ


オープニングの弊社副社長のミン・リーを含め、登壇者の半数近くが外国人であるという国際色豊かなカンファレンスとなりました。

ご来場いただいた皆様には、どのような印象のカンファレンスでしたでしょうか? 2009年より本カンファレンスを続けておりますが、基調講演や特別講演のテーマの変遷はまさにアジャイルの世界的な動向を色濃く反映したもので興味深いラインナップとなっております。今年は、ついにポートフォリオ管理へとその領域は広がり、もはや単なる開発プロセスから、ビジネス手法へとアジャイルマインドの適用領域が拡大している実情を感じさせる内容となりました。許されるのであれば、是非来年もこのような試みを継続できることを願っております。

多数のご来場ありがとうございました。


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